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親孝行

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ある晴れた日、店の前に車が止まり、運転席から降りた男性が、助手席のドアを開け、そこに座っている老女を背負うと、吹野のドアへと歩み始めました。


私は慌ててドアへと駆け寄り、内側から扉を開き「いらっしゃいませ!どうぞ~」とご案内し、入り口近くの席を勧めました。


その男性は「ありがとうございます!」と私に礼を言いながら、慣れた様子で、上手に老女を椅子に降ろし、「どうしてもここの珈琲が飲みたいというものですから、連れて来ました~」と優しい笑顔で仰り、老女の希望されたモカを「美味しい~」と言いながら飲んで下さいました。


老女は、もちろんその男性のお母さんでした。


数ヶ月前にお家で転倒され、入院リハビリの後、やっと退院なさったばかりだということでした。


当店の珈琲を気に入って下さり、それからも時々訪れて下さるようになりました。


いつも、お天気の良い日で、お母さんの趣味の写真を撮りに、大山や花回廊などへ行かれた帰りに立ち寄って下さっているようでした。


なんと親孝行な息子さんだろう、と、いつも感心するばかりでした。


車椅子で、という風景はよく見かけますが、背負うという姿はこの頃あまり見かけませんよね。


何だか、車椅子より心が通っているような気がするんですよね。(車椅子には申し訳ないけど!)


でも、背負う人は大変です。体力が相当必要です。

それに、車の乗り降りの時も、一度もお母さんの頭を車にぶつけられたことが無いのです。


私が感心すると「これも慣れ ですから!!」と、笑って仰る。


ある日、お母さんが、こんな不自由な体になってからも、息子があちこち旅行に連れて行ってくれる、と嬉しそうに話して下さり、この間は東京にも行きました。

愉しかったです!と、笑顔。


すると、息子さんが、こっそり私に「もう国内はいいから、今度は外国に行きたい!なんて言うんですよ~!

ひとの苦労も知らないで~」と汗を拭きながら苦笑い(笑)


それは、どれほど大変な旅かは、想像がつきます。

なかなか出来る事ではありません。


でも、この息子さんの優しさには、それまでのお母さんの息子さんに注がれた愛があるからなのではないかと、私は思いました。


 たらちねの母を 背負いて そのあまり 軽きに泣きて 三歩あゆまず


そんな句が、ふと浮かびます。


このところ、姿をお見かけしていません。お元気に旅をしていらっしゃるでしょうか。

 


 

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2009年1月

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