あれは、いつのことだったろうかと、古い日記を開き探してみると、
それは、2006年の10月29日のページに綴られていました。
いつもと変わらない朝を迎え、いつものように開店準備を終えた頃。
一組の男女がおみえになりました。
女性は見覚えのあるお顔でした。
お冷やの用意をしながら思い巡らしてみると、すぐにもう少し幼い顔の彼女が浮かび上がってきました。
5~6年前になります。
まだ、彼女が医学生だった頃、よくご両親と一緒に来てくれていました。
毎週末のように、ご両親が東京から娘に会いに来ていらして、そして、午後のひと時を珈琲屋吹野で寛いで戴いていたのでした。
オトナシイお嬢さんと物静かなお父さん。
お母さんも静かな方でしたが、そんな事情を話して下さったのは、お母さんでした。
とても、仲の良いご家族で、いつも微笑ましく思っていた事を憶えています。
そして、卒業の春、お母さんが「これで、ここへ来る事がなくなると思うと、とっても淋しいです。
米子へ来て、ここへお邪魔するのが愉しみでした。ありがとうございました。お元気で!!」と言い残し、米子を後にされたのが、ついこの間のように、甦って来ました。
思えば、その頃お話するのは、専(もっぱ)らお母様で、彼女と話した事は無いような気がしました。
その彼女が、口を開きました。
「この度、結婚しました。主人です!!」と、テレながら隣の男性を紹介してくれました。
「おめでとうございます!!」と思わず歓声を上げると、ご主人が徐(おもむろ)に、
「実は、これが僕たちの新婚旅行なんです!!
彼女に、どこに行きたいかと尋ねたら、米子に行きたい!!って言うんです。それで今、米子空港に着いて、まず行きたいところがあるから!と言われて、連れてこられたのが、ここでした!!」と・・・
迂闊にも、涙が出てしまいました。
青春時代、学生時代を過ごした「米子」を新婚旅行先に選んでくれただけでも、とても嬉しいのに、更に、まず一番に吹野に行きたいと言ってくれたことが嬉しくて、胸がいっぱいになりました。
在学中の数年間、何をして差し上げたわけでもありません。
それこそ、言葉を交わしたわけでもないのに、吹野を想い続けていてくれたことが、とても嬉しく、
感激しました。
それから、「お店の中の写真撮らせて戴いていいですか?!」と、二人で嬉しそうにあちこちにレンズを向けシャッターを切ると、「すいません、一緒に撮らせて戴けませんか?!」というお言葉に、彼女と並んで、記念の一枚をご主人に撮って戴きました。
今度は私が申し出て、お二人の新婚ホヤホヤの記念写真を数枚撮らせて戴きました。
「両親にも、吹野さんの写真を必ず撮って来るようにと頼まれました。
この写真が両親への一番のお土産になると思います。いつも吹野さんの話をしていて、亦行きたいね~!と、話してたんですよ!!」
という彼女の言葉に、胸を熱くしながら、その時私の瞼の裏には、はっきりとご両親の顔が浮かんでいました。
次は、大学のキャンパスへ行ってみます。と、仲良く出掛けて行きました。
きっと、そこでも、懐かしい人々との再会があったことでしょう。
清々しい風が吹いていました。
どうぞ、ふたりがいついつまでも し あ わ せ でありますように・・・
ご両親は「吹野」の写真を喜んで下さったでしょうか?!
また、いつか、みなさん一緒に来て下さると嬉しいですね!
その時は、彼女の腕の中に幼子がいたりして・・・
また、孫が増えますね!!!