毎年この季節になると蝉の声に夏の訪れを感じる。
それは決して耳障りというわけではなくむしろ季節感があり
好きな音のひとつでした。
ところが今年、初めて「なんだこの音は!!」というほどの
けたたましい蝉の大合唱を耳にして驚き目が覚めました。
蝉の異常発生なのではないかと思わず我が家の庭を見まわしてしまうほどでした。
連日の暑さに訪れて下さるお客様の「美味しい珈琲で生き返ったわ」という呟きに
こちらも救われる思いがします。
そんな暑い中ひょっこり顔を見せてくれたのは懐かしい二人でした。
かつての鳥取大学の医学生で今は倉敷で開業医として頑張っている二人です。
卒業後も時々不意に訪ねてくれているのですが、今回は卒業三十周年の
同窓会の為米子へとやって来たのだと言います。
あれから三十年かぁ~ と感慨に浸っていると「吹野は何年になる?」と訊かれ
「34年になるよ」とこたえると「やっぱりそうか~」と二人が顔を見合わせる。
鳥大の医学部はその当時二年生までは鳥取市で学び三年生からの4年間を
大学病院のある米子で過ごすというパターンでした。
なので彼らが米子へ来たのは卒業の4年前、即ち34年前ということになる。
ということは彼らが吹野へ来始めた年は、吹野がオープンした年である!!
ということに気付いたというのである(@_@)
この二人は吹野の誕生の時のことを知っている貴重なお客様というわけです!!
彼らの記憶にある私も忘れかけている懐かしい話が次々と語られ、
34年の時の流れが一気に逆戻りしたようでした。
34年前は私もまだ若かったけれど、彼らもまだ学生で青春真っただ中でした。
それが医学生同士で夫婦となり、今や3人の子の父と母なのです!!
長女は母と同じ皮膚科医になったという。
あの頃より父は貫禄ができ、母はあの頃より美しくなった。
とても仲睦まじい夫婦になっていて私は何よりそれが嬉しい。
岡山に帰ってからも「珈琲屋吹野」みたいな店を頑張って探したけど
いまだに見つかっていないという。
二人とも吹野で初めて珈琲を飲めるようになったと初めて明かされた。
そして吹野の珈琲を久しぶりに口に含むと母はこう言った。
「ん~ 美味しい珈琲を飲むと思わず目を閉じちゃうんだよね~(笑)」と・・・
するとすかさず隣で父がこう言う。
「あと~ 美味しいものを食べた時は嬉しくてつい笑っちゃうんだよね~(笑)」と
ケーキを口に含みながら言う。
そんな会話をカウンターの中で聞いている私は思わずこう呟く。
「あ~ あなた達が私の財産だよ~(笑)」と
お土産にと持って来てくれた「白桃」と「藤戸まんぢゅう」は
何とも言えない「幸せの味」がしました。
そして私はしっかり見ていました。
二杯目の珈琲を飲むとき、母がにっこりと目を閉じたのを・・・
涙が溢れそうでした。
5年後、10年後 また会いたい二人です。