日日是好日

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昼下がり、店の前に自転車が止まる。


降りた青年が、珈琲屋吹野の扉を押し入って来る。


「いらっしゃいませ~」と言いながら、ん~!見覚えのあるお顔~?!と内心思う。


注文戴いたアイスコーヒーをお持ちすると、「10年振りに来ました~!」と恥ずかしそうに微笑む。


「ですよね~!見覚えあるお顔だな~と思ってました!!」と言うと、「あ~憶えていて下さいましたか~!!」と頭を掻く。


「学生の頃よく来てたんですけど、仕事が遠くになったのでずっと来れなかったんですけど、今度転勤でこっちになったもんで、ちょっと仕事サボって来ちゃいました!!」と。


それから静かにコーヒーを口へ運びながら、感慨深そうに煙草に火をつけ、椅子に体を委ね目を閉じ、久し振りの吹野を愉しんで下さっているようでした。


最後のひと口を飲み干すと、席を立ちレジに。
「久し振りの珈琲のお味は如何でしたか?!10年前と変わっていませんでしたでしょうか?!」と、おどけてお尋ねすると「変わらず美味しかったっす!祈願が叶いました!!」と。          

そして、「10年前、いっつもここで勉強させてもらってました。お蔭で資格が取れて、今の仕事に就けました」なんて嬉しい事を言ってくれました。


「そうですか~!お役に立ててよかったです!!」


誰かの人生の中で、ほんの少しでもお役に立てるということは、何より幸せです。


こういう事があるから、私も頑張れるのです。


かつては、学生さん達がここで勉強している姿をよく見かけたものでした。


「これから、また時々寄らせてもらいます!!」と言い残し、自転車は秋風の中を走り去って行きました。


10年の月日が、彼を大人にし、私の皺を増やしました!!

 


 

「ネコヤナギ」のお話

 

 

昨日の閉店前最後のお客様は・・・・・


「こんにちわ~!」っと元気に入って来たコーチャン でした。


まだベビーカーに乗って「バブバブ~」と言っていたコーチャンが、今はもう4歳です!!


今日は、お母さんとぬいぐるみ人形劇「天のたまご」を観て来た帰りだということでした。


「どんなお話か教えてあげようか~」とコーチャンが笑顔で言います。


「うん、教えて~」と私が言うと、「えっとね~え~とね~」と一生懸命に言葉を探します。


私は、辛抱強く待ちます。

子供が話をしようとする気持ちを大切にしたいからです。


おとなになってから、大切な事は、お勉強がデキる、ということではなく、人とコミュニケーションがとれることと、人の痛みがわかる優しい心をもっていることだと、私は思っています。


だから、珈琲屋吹野に来る子供たちの話は、どんな話でも、耳を傾けることにしています。


「あのね~アメンボウがねぇ~・・・・・」とようやく話が始まります。


するとお母さんが「アメンボウじゃなくて、アコヤ貝でしょ~」と。
そこから、たまごが生まれて、サメやクジラをやっつけて、戦う!のだと、コーチャンは、必死に話してくれます。と、また「ネコヤナギがね~」と新しい名前が出てきます。


「???ネコヤナギ~?? アコヤ貝じゃなかったっけ~!!」と私が言うと、「あっ、そうそう、アコヤ貝がねぇ~」と笑いながら続きが始まります。


アコヤガイとネコヤナギ!!言われてみれば、よく似てますよね~!!


可笑しくて噴き出してしまいました。でもコーチャンは愉しかった人形劇のことを伝えたくて一生懸命なのです。


本当に可愛いんです!!


そして、話の途中、急に「お母さん、抱っこして!!」とお母さんの膝にちょこんと座ります。


それも、ほんの1分足らずです。


もうそれで満足して、お話に夢中になります。


それには、訳がありました。


普段は、今年生まれた弟に、その膝を奪われているのだそうです。


だから、今がチャンス!!と気付き、ちょっとだけ甘えてみたのです。


4歳だって、まだお母さんの膝は恋しいのです!!


男の子なのに、この子はホントおしゃべりで~!!とお母さんは困った顔をしましたが、私は、男の子だろうと、女の子だろうと、誰とでもお話できるということは素晴らしい事だから、そんなこと言わないで、お話聴いてあげてね!!と、お母さんにお願いしました。


この次は、ゴレンジャーの靴を見せてくれるのだそうです。


愉しみですね~!!


孫の成長を見守るおばあちゃんの気分!!でした。

 

 

誕生日おめでとう!!

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昨夜は友人の娘の24歳を祝う会で、久し振りに米子の夜の街へ出掛けた。


友人はもう30年以上の付き合いになるだろうか。


だから、その娘も当然のことながら、生まれた時から知っている。

その子が24歳になるのだから、自分の重ねてきた年月の長さを改めて実感したりする。


10月20日に誕生日を迎えるMちゃんは、理学療法士の資格を取り、いつの間にか私たちと対等に話が出来る大人になっていた。

もちろん、お酒だって呑める。


まさか、あの幼子と、一緒に酒を酌み交わす日が来ようとは・・・・・
今や立派な社会人。

体重も気になる乙女になり、かなりの努力の結果ダイエットに成功した!!などという話もしてくれた。


ひとりっ子なので、両親の溺愛の中で育てられたが、それほど我儘にもならず、しっかりした女性に成長している。


施設に入居している母方のおばあちゃんの面倒もよくみている。


遊びたい盛りに、なかなかできる事ではない。


先日も家族でおばあちゃんを連れて、珈琲屋吹野に来てくれた。


私も数年ぶりにお会いするおばあちゃんでしたが、家族に囲まれ、とても幸せそうな笑顔を見せて下さいました。


お天気の良い日で、花回廊へ行った帰りとのことで、花に囲まれた仲睦まじい写真をデジカメの画像で見せてくれました。


もうそろそろ、素敵な彼が・・・と思う娘と、まだまだ手放したくない両親とのバトルが愉しみである!!


 

営業マンは名脇役!

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吹野には時々飛び込みのお客様があります。


昨年の3月、まだ少し風が冷たい日でした。


スーツに黒いカバンという、如何にも営業マンという出で立ちの若者が入ってきました。


「こんにちわ~」と「珈琲をお願いします!」と言うが早いか「お手洗いお借りします!」と黒いカバンを置くと、一目散にトイレへ駆け込みました。


ずっと我慢して来たのかな~なんて気の毒に思いながら珈琲を淹れていると、若者はスッキリ爽やかに出て来て、私の正面のカウンター席に腰を降ろしました。


「素敵なお店ですね~!」と店内を見回しながら言いました。セールストークのお世辞かもしれないけど、私は心から思って言ってくれたのだと受け取り「ありがとう!」とお礼を言いました。


それから彼が名刺を差し出したのですが、よく分からない名刺なので、何の仕事か尋ねると、話してくれたお仕事はこうでした。


バスに乗った事がある方ならご存知かと思いますが、それぞれのバス停に近づくと「次は○○前です」などのアナウンスが流れます。


その時、「○○へ行かれる方は、ここで降りると便利です」というような案内が付け加えられる事があります。


私は彼からその話を聞くまで、そのアナウンスは、バスの親切なサービスだと思っていたのですが、実は、有料の広告宣伝であり、彼はそのスポンサーを獲得する為に歩いているのだというのです。


「へ~え!」と感心する私。


もしかして、当店にもその営業をする為に来たのかと思いましたが、幸か不幸か、ここはバスの路線沿線ではなく、対象外でした!!


それから話が弾み、彼が今日契約してもらったところのアナウンスを作ったものを、これでどうか?とアドバイスを求められるままに、色々意見を言わせてもらったりして、愉しい会話が出来ました。


一週間という期間限定で広島から来ていると言い、また次の日もやって来た。
どうやら吹野を気に入ってくれたらしい。


そして私が、どうしてこの仕事を選んだのかと質問したからだったと思うのですが、この仕事に就く前は、役者を目指し頑張っていた!という話になりました。
これまた「へ~え!」と感心する私。


トイレもお風呂もない安アパートで、何人かの仲間たちと頑張ってみたけど、どうにも芽が出ず、諦めて就職したのだと言う。両親の心配もあったとのこと。


一緒に頑張っていた仲間を聞くと、私も知っているお笑い芸人の名前が何人かあがった。


ちょこっと、その他大勢として出た作品があるかと問うと、あります!と言う。
「何?!」と訊ねると、「映画 海猿Ⅰです!!」と言うのです。


「凄いじゃない!!」と、はしゃぐ私に、ほんのちょっとで、知らなければ見過ごしてしまうようなワンシーンですから!!」と首を竦める若者。


彼が説明してくれたそのシーンに気をつけながら、「必ず君を見つけるからね!!」と約束し、その週末の夕方でした。


「今から広島に帰ります。色々ありがとうございました。今度は仕事じゃなく、また米子に来ます!!」と深々と頭を下げ、若者は立ち去って行きました。


その後、もちろん私は「海猿Ⅰ」を眼を皿のようにして、彼を見つけるべく、正座して、瞬きもせぬよう拝見致しました。


彼は謙遜していました。
しっかりと主役の伊藤英明くんとの絡みもあり、ほんの少しのセリフもありました。


ギョロっとした眼が特徴だったSくん、名演技をしていたと私は思いました。


画面に向かい、Sくんの名演技に拍手を贈りました!!


今も何処かの街で、元気に歩いているでしょうか。


また、いつか、会いたいですね!!

 

 


 

ろくちゃん

 

ろくちゃんが始めて珈琲屋吹野にやって来たのは、去年の今頃?だっただろうか。


お母さんに連れられて、恥ずかしそうに入って来たのは、高校三年生の可愛い女の子でした。


ちゃんとお話が出来る子で、色々な事を話してくれて、すぐに常連さんになってくれました。


お気に入りは、「カフェ ラ テ」と「キャラメルバナナトースト」でした。


そして、こういうお店で「いつもの!!と注文してみたいよ~」と言っていた少女は、それから頻繁にそのお気に入りを食べに来てくれるようになり、すぐにそれを実現させました。


「こんにちわ~」と入って来て、「いつものを!!」と言えば、「カフェ ラ テ」と「キャラメルバナナトースト」が目の前に登場するのです。

少し大人になったような気がしたみたいに嬉しそうだったな~と、その笑顔を思い出します。


高校三年生の秋に、こんなにのんびりしているのは何故?とお思いでしょう。
実は、彼女はもう進路が決まっていたのです。


彼女は、もう自分の「やりたい事」をすでに見つけていたのです。
そして、そのやりたい事を学ぶ為の学校に入学が決まっていたのです。


だから、まわりの友達が、受験受験で大童な時、彼女はのんびりと吹野にやって来ては、お気に入りのセットに舌鼓を打ちながら、将来の夢を語ってくれました。


18歳で、自分がやりたいことを見つけられるという事は、素晴らしいことだと思います。


自分自身のことを振り返ってみても、まだ18歳の時は、具体的なものは見えていなかった。


そして今ほど、多種の職業がなく、選択の範囲が限られていたような気がします。


ろくちゃんが選んだ職業も、「へえ~!そんな仕事があるんだね~」と、おばさん達には馴染みの無い仕事でした。


でも、とっても面白そうで、少なくとも私個人的には、ワクワクするような仕事です。


この春、ろくちゃんはその夢に向かって進むべく、東京へと旅立って行きました。


女の子をひとり都会に出した母の心配をよそに、めまぐるしい毎日の中で、夢を掴む為に歩み続けています。


時々、帰省する時は、必ず吹野に「いつもの!」を食べに来てくれます。


先日もお母さんにメールがあったそうです。


「吹野のキヤラメルバナナトーストが、凄~く食べたいんだけど!宅急便で送って!!」と・・・
嬉しいですね~!


でも、残念ながら送る事は出来ないので、この次帰って来る時までお預けです。ごめんね!!


夏に帰って来た時も、とても洗練されて綺麗になっていました。
この次、更に成長した「ろくちゃん」に会うのが愉しみです。


夢に向かって、ガンバレろくちゃん!!